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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
影さす女讐
『御内方には、頼母子講のようなものに入っておいでないのか。月々、懸金をして、何ぞの場合に纒めて取る無尽と申すあれなどには』
『ええ、つい、そのような平常の心懸けも……』
『いや、お二人共、お若いのだから無理はない。――だが、その若い者こそ、世の中へ出してやりたいものだな。三十三間堂の通し矢で、名誉の額でも揚げれば、あわよくば御帰参がかなうかもしれぬし、又御帰参がかなわぬ迄も、諸侯から仕官の口は屹度かかって来るが……』
『止してくれ。……もう止してくれ。おれは大小をすてて、算盤が持ちたくなった。……金の工面のつかぬ身で、わずかな額に、金々と云っている程、自分の浅ましくなるものはない』
賛五郎は、そう云い放つと、酔いに耐えないように、御免といいながら横になってしまった。
『どれ、吾々もお暇としようか。……いやもう関わずに。……それより御内方、風邪をひかさぬように、平田殿へ何ぞ掛けてあげてくれ』
伏原半蔵は、土間の履物を足の先で探りながら、手をつかえている墨江の顔を、無遠慮な眼でながめて帰った。
影さす女讐
――お見送りの出来ないのがただ名残り惜しゅうぞんじます。