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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
断念
あわてて、彼女はべつな横丁へ曲がった。足のくろぶしがわくわくして、振向いて見る勇気もなかった。道を廻って、藪づたいに、わが家の台所へ戻って来てから、初めて、
『……あんなよく似た人があるかしら?』
と、呟いて、もいちど藪の中を見廻した。
断念
鴨の肉がわずかに皿に残っている。
もう酒とも呼ばない。
主客三人とも、充分、酔いがまわっている様子で、
『まだ二日あるのだ、何とか工面がつかぬか。ええ、おい平田氏』
伏原半蔵が云うと、連れの庄司隼太という男も、
『高利貸に知辺はないのか。抵当と云うたら、この首で貸せというのだ。その位、押し強く出なければ、金策などは出来るものか。大体、ここの夫婦は、ちとおとなし過ぎる』
と、楊枝で歯をせせりながら云う。
賛五郎は、酔わない振りを努めていたが、笑い声の底に、悪酔している淋しい響きがあった。
『あはははは。まさか、首を抵当に金も貸すまい。――他の御一統には、面目次第もないが、貴公たちから、違約の罪、よろしく詫びておいてくれ』
『残念だなあ』
と、伏原半蔵は長嘆して、
『通し矢の射手に立って、名乗りをあげるからには、各※(二の字点、1-2-22)自信たっぷりだが、おれ達の仲間では、まず今度の名誉は、平田賛五郎に取られるだろうと定評しているのに、その貴公が、金の為に、断念するなどとは、