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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
『……や?』
然し、賛五郎には、何か心当りがあったものとみえる。異様な顔いろの裡に彼の体は硬ばっていた。編笠の男は、じっと、その前へ来て突っ立っていた。
『おめずらしのう』
笠の紐を脱った。
色の浅黒い、薄あばたの男だった。――然し、恰幅は賛五郎よりもずっと逞しくて、堂々として見えた。
賛五郎は唸くように……笠を脱ぐ相手の顔を凝視していたが、
『おう、大牟田公平か』
わざと、冷ややかに云ったが、声までが、硬ばった舌に掠れて、重く聞えた。
『賛五郎殿、其許に、渡して上げたいものがあって、急にここ迄追って来た。――受け取ってくれるか』
『うむ。……渡す物とは、五年前の怨みか、刃か』
『これだ』
公平が取出したのは、一握りの黒髪と懐剣だった。巻いてある白紙には、生々しい血しおが滲み出していた。
『……あっ? これは』
『墨江殿のものだ』
『うぬっ、さては』
賛五郎の手が刀の柄に鳴った。公平は、その肱を力まかせに横へ突き放して、
『世間知らずめ。相手違いをいたすな。下手人はこの男だっ』
云いざま、公平はびゅっと身を横に躍らせて、人垣を作りながら傍観していた仲間の一人を、不意討ちに、頭から斬り下げた。