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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
其が、何だと言われずとも、すべての心が、一度に了解して居た。言い難い恐怖にかみずった女たちは、誰一人声を出す者も居なかった。
身狭乳母は、今の今まで、姫の側に寄って、後から姫を抱えて居たのである。皆の人はけはいで、覚め難い夢から覚めたように、目をみひらくと、ああ、何時の間にか、姫は嫗の両腕両膝の間には、居させられぬ。一時に、慟哭するような感激が来た。だが長い訓練が、老女の心をとり戻した。凛として、反り返る様な力が、湧き上った。
誰ぞ、弓を――。鳴弦じゃ。
人を待つ間もなかった。彼女自身、壁代に寄せかけて置いた白木の檀弓をとり上げて居た。
それ皆の衆――。反閇ぞ。もっと声高に――。あっし、あっし、それ、あっしあっし……。
若人たちも、一人一人の心は、疾くに飛んで行ってしまって居た。唯一つの声で、警※を発し、反閇した。
あっし あっし。
あっし あっし あっし。
狭い廬の中を蹈んで廻った。脇目からは、遶道する群れのように。
郎女様は、こちらに御座りますか。
万法蔵院の婢女が、息をきらして走って来て、何時もなら、許されて居ぬ無作法で、近々と、廬の砌に立って叫んだ。
なに――。