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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

十

だが、やっぱり、おれにはまだまだ、若い色好みの心が、失せないで居るぞ。何だか、自分で自分をなだめる様な、反省らしいものが出て来た。

其にしても、静か過ぎるではないか。

さようで。で御座りますが、郎女のお行くえも知れ、乳母もそちらへ行ったとか、今も人が申しましたから、落ちついたので御座りましょう。

詮索ずきそうな顔をした若い方が、口を出す。

いえ。第一、こんな場合は、騒ぐといけません。騒ぎにつけこんで、悪い魂や、霊が、うようよとつめかけて来るもので御座ります。この御館も、古いおところだけに、心得のある長老の一人や、二人は、難波へも下らずに、留守に居るので御座りましょう。

もうよいよい。では戻ろう。

十

おとめの閨戸をおとなう風は、何も、珍しげのない国中の為来りであった。だが其にも、曾てはそうした風の、一切行われて居なかったことを、主張する村々があった。何時のほどにか、そうした村が、他村の、別々に守って来た風習と、その古い為来りとをふり替えることになったのだ、と言う。かき上る段になれば、何の雑作もない石城だけれど、あれを大昔からとり廻して居た村と、そうでない村とがあった。