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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

四

お聞き及びかえ。

当麻真人の、氏の物語りである。そうして其が、中臣の神わざと繋りのある点を、座談のように語り進んだ姥は、ふと口をつぐんだ。外には、瀬音が荒れて聞えている。中臣・藤原の遠祖が、天二上に求めた天八井の水を集めて、峰を流れ降り、岩にあたって漲り激つ川なのであろう。瀬音のする方に向いて、姫は、掌を合せた。

併しやがて、ふり向いて、仄暗くさし寄って来ている姥の姿を見た時、言おうようない畏しさと、せつかれるような忙しさを、一つに感じたのである。其に、志斐姥の、本式に物語りをする時の表情が、此老女の顔にも現れていた。今、当麻の語部の姥は、神憑りに入るらしく、わなわな震いはじめて居るのである。

四

ひさかたの  天二上に、

我が登り   見れば、

とぶとりの  明日香

ふる里の   神南備山隠り、

家どころ   多に見え、

豊にし    屋庭は見ゆ。

弥彼方に   見ゆる家群

藤原の    朝臣が宿。

遠々に    我が見るものを、

たか/″\に 我が待つものを、

処女子は   出で通ぬものか。

よき耳を   聞かさぬものか。

青馬の    耳面刀自。

刀自もがも。女弟もがも。