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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
女たちも、唯姫の手わざを見て居るほかはなかった。何を縫うものとも考え当らぬ囁きに、日を暮すばかりである。
其上、日に増し、外は冷えて来る。人々は一日も早く、奈良の御館に帰ることを願うばかりになった。郎女は、暖かい昼、薄暗い廬の中で、うっとりとしていた。その時、語部の尼が歩み寄って来るのを、又まざまざと見たのである。
何を思案遊ばす。壁代の様に縦横に裁ちついで、其まま身に纏うようになさる外はおざらぬ。それ、ここに紐をつけて、肩の上でくくりあわせれば、昼は衣になりましょう。紐を解き敷いて、折り返し被れは、やがて夜の衾にもなりまする。天竺の行人たちの著る僧伽梨と言うのが、其でおざりまする。早くお縫いあそばされ。
だが、気がつくと、やはり昼の夢を見て居たのだ。裁ちきった布を綴り合せて縫い初めると、二日もたたぬ間に、大きな一面の綴りの上帛が出来あがった。
郎女様は、月ごろかかって、唯の壁代をお織りなされた。
あったら 惜しやの。
はりが抜けたように、若人たちが声を落して言うて居る時、姫は悲しみながら、次の営みを考えて居た。
「これでは、あまり寒々としている。殯の庭の棺にかけるひしきもの―喪氈―、とやら言うものと、見た目にかわりはあるまい。