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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

おれは、もっともっと長く寝て居た。でも、おれはまだ、お前を思い続けて居たぞ。耳面刀自。ここに来る前から……ここに寝ても、……其から覚めた今まで、一続きに、一つ事を考えつめて居るのだ。

古い――祖先以来そうしたように、此世に在る間そう暮して居た――習しからである。彼の人は、のくっと起き直ろうとした。だが、筋々が断れるほどの痛みを感じた。骨の節々の挫けるような、疼きを覚えた。……そうして尚、じっと、――じっとして居る。射干玉の闇。黒玉の大きな石壁に、刻み込まれた白々としたからだの様に、厳かに、だが、すんなりと、手を伸べたままで居た。耳面刀自の記憶。ただ其だけの深い凝結した記憶。其が次第に蔓って、過ぎた日の様々な姿を、短い聯想の紐に貫いて行く。そうして明るい意思が、彼の人の死枯れたからだに、再立ち直って来た。

耳面刀自。おれが見たのは、唯一目――唯一度だ。だが、おまえのことを聞きわたった年月は、久しかった。おれによって来い。耳面刀自。

記憶の裏から、反省に似たものが浮び出て来た。

おれは、このおれは、何処に居るのだ。……それから、ここは何処なのだ。其よりも第一、此おれは誰なのだ。