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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

何だか、空な事に力を入れて居たように思えてならぬ寂しさだ。

だが、其氏神祭りや、祭りの後宴に、大勢の氏人の集ることは、とりわけやかましく言われて来た、三四年以来の法度である。

こんな溜め息を洩しながら、大伴氏の旧い習しを守って、どこまでも、宮廷守護の為の武道の伝襲に、努める外はない家持だったのである。

越中守として踏み歩いた越路の泥のかたが、まだ行縢から落ちきらぬ内に、もう復、都を離れなければならぬ時の、迫って居るような気がして居た。其中、此針の筵の上で、兵部少輔から、大輔に昇進した。そのことすら、益々脅迫感を強める方にばかりはたらいた。今年五月にもなれば、東大寺の四天王像の開眼が行われる筈で、奈良の都の貴族たちには、すでに寺から内見を願って来て居た。そうして、忙しい世の中にも、暫らくはその評判が、すべてのいざこざをおし鎮める程に、人の心を浮き立たした。本朝出来の像としてはまず、此程物凄い天部の姿を拝んだことは、はじめてだ、と言うものもあった。神代の荒神たちも、こんな形相でおありだったろう、と言う噂も聞かれた。

まだ公の供養もすまぬのに、人の口はうるさいほど、頻繁に流説をふり撒いていた。