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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
の中に見た一首がふと、此時、彼の言いたい気持ちを、代作して居てくれていたように、思い出された。
そうだ。「おもしろき野をば 勿焼きそ」だ。此でよいのだ。
けげんな顔を仰けている伴人らに、柔和な笑顔を向けた。
そうは思わぬか。立ち朽りになった家の間に、どしどし新しい屋敷が出来て行く。都は何時までも、家は建て詰まぬが、其でもどちらかと謂えば、減るよりも殖えて行っている。此辺は以前、今頃になると、蛙めの、あやまりたい程鳴く田の原が、続いてたもんだ。
仰るとおりで御座ります。春は蛙、夏はくちなわ、秋は蝗まろ。此辺はとても、歩けたところでは、御座りませんでした。
今一人が言う。
建つ家もたつ家も、この立派さは、まあどうで御座りましょう。其に、どれも此も、此頃急にはやり出した築土垣を築きまわしまして。何やら、以前とはすっかり変った処に、参った気が致します。
馬上の主人も、今まで其ばかり考えて居た所であった。だが彼の心は、瞬間明るくなって、先年三形王の御殿での宴に誦んだ即興が、その時よりも、今はっきりと内容を持って、心に浮んで来た。
うつり行く時見る毎に、心疼く 昔の人し 思ほゆるかも