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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
築土垣 築土垣。もう、彼の心は動かなくなった。唯、よいとする気持ちと、よくないと思おうとする意思との間に、気分だけが、あちらへ寄りこちらへよりしているだけであった。
何時の間にか、平群の丘や、色々な塔を持った京西の寺々の見渡される、三条辺の町尻に来て居ることに気がついた。
これはこれは。まだここに、残っていたぞ。
珍しい発見をしたように、彼は馬から身を翻しておりた。二人の資人はすぐ、馳け寄って手綱を控えた。
家持は、門と門との間に、細かい柵をし囲らし、目隠しに枳殻の叢生を作った家の外構えの一個処に、まだ石城が可なり広く、人丈にあまる程に築いてあるそばに、近寄って行った。
荒れては居るが、ここは横佩墻内だ。
そう言って、暫らく息を詰めるようにして、石垣の荒い面を見入って居た。
そうに御座ります。此石城からしてついた名の、横佩墻内だと申しますとかで、せめて一ところだけは、と強いてとり毀たないとか申します。何分、帥の殿のお都入りまでは、何としても、此儘で置くので御座りましょう。さように、人が申し聞けました。はい。
何時の間にか、三条七坊まで来てしまっていたのである。
おれは、こんな処へ来ようと言う考えはなかったのに――。