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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

其老女たちすら、郎女の天稟には、舌を捲きはじめて居た。

もう、自身たちの教えることものうなった。

こう思い出したのは、数年も前からである。内に居る、身狭乳母・桃花鳥野乳母・波田坂上刀自、皆故知らぬ喜びの不安から、歎息し続けていた。時々伺いに出る中臣志斐嫗・三上水凝刀自女なども、来る毎、目を見合せて、ほうっとした顔をする。どうしよう、と相談するような人たちではない。皆無言で、自分等の力の及ばぬ所まで来た、姫の魂の成長にあきれて、目をみはるばかりなのだ。

才を習うなと言うなら、まだ聞きも知らぬこと、教えて賜れ。

素直な郎女の求めも、姥たちにとっては、骨を刺しとおされるような痛さであった。

何を仰せられまする。以前から、何一つお教えなど申したことがおざりましょうか。目下の者が、目上のお方さまに、お教え申すと言うような考えは、神様がお聞き届けになりません。教える者は目上、ならう者は目下、と此が、神の代からの掟でおざりまする。

志斐嫗の負け色を救う為に、身狭乳母も口を挿む。

唯知った事を申し上げるだけ。其を聞きながら、御心がお育ち遊ばす。そう思うて、姥たちも、覚えただけの事は、郎女様のみ魂を揺る様にして、歌いもし、語りもして参りました。