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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

十四

天井の光りの輪が、元のままに、ただ仄かに、事もなく揺れて居た。

十四

貴人はうま人どち、やっこは奴隷どち、と言うからの――。

何時見ても、大師は、微塵曇りのない、円かな相好である。其に、ふるまいのおおどかなこと。若くから氏上で、数十家の一族や、日本国中数万の氏人から立てられて来た家持も、じっと対うていると、その静かな威に、圧せられるような気がして来る。

言わしておくがよい。奴隷たちは、とやかくと口さがないのが、其為事よ。此身とお身とは、おなじ貴人じゃ。おのずから、話も合おうと言うもの。此身が、段々なり上ると、うま人までがおのずとやっこ心になり居って、いや嫉むの、そねむの。

家持は、此が多聞天か、と心に問いかけて居た。だがどうも、そうは思われぬ。同じ、かたどって作るなら、とつい聯想が逸れて行く。八年前、越中国から帰った当座の、世の中の豊かな騒ぎが、思い出された。あれからすぐ、大仏開眼供養が行われたのであった。其時、近々と仰ぎ奉った尊容、八十種好具足した、と謂われる其相好が、誰やらに似ている、と感じた。其がその時は、どうしても思い浮ばずにしまった。その時の印象が、今ぴったり、的にあてはまって来たのである。