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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
こうして対いあって居る主人の顔なり、姿なりが、其ままあの盧遮那ほとけの俤だ、と言って、誰が否もう。
お身も、少し咄したら、ええではないか。官位はこうぶり。昔ながらの氏は氏――。なあ、そう思わぬか。紫徴中台の、兵部省のと、位づけるのは、うき世の事だわ。家に居る時だけは、やはり神代以来の氏上づきあいが、ええ。
新しい唐の制度の模倣ばかりして、漢土の才が、やまと心に入り替ったと謂われて居る此人が、こんな嬉しいことを言う。家持は、感謝したい気がした。理会者・同感者を、思いもうけぬ処に見つけ出した嬉しさだったのである。
お身は、宋玉や、王褒の書いた物を大分持って居ると言うが、太宰府へ行った時に、手に入れたのじゃな。あんな若い年で、わせだったのだのう。お身は――。お身の氏では、古麻呂。身の家に近しい者でも奈良麻呂。あれらは漢魏はおろか、今の唐の小説なども、ふり向きもせんから、言うがいない話じゃわ。
兵部大輔は、やっと話のつきほを捉えた。
お身さまのお話じゃが、わしは、賦の類には飽きました。どうもあれが、この四十面さげてもまだ、涙もろい歌や、詩の出て来る元になって居る――そうつくづく思いますじゃて。