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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
指定の場所に着いたのは午後六時ごろでした。彼女は何とか店にいって出て来たのでしょう。それから森の中を歩いたり、野の草をふみ歩きながらいろいろと語りましたが、彼女はあくまで金の問題を固執するのです。それで日は暮れるし寒くはなるので、よく行ったNホテルで話をしようじゃないかということに定まりました。勿論談判さえすめば直ぐに帰る気だったのです。
われわれが着いたのは夜の七時ごろでした。かねて私らを知っているホテルでは、直ぐに空いていた七号室に案内してくれました。私はともかく今日こそ判然と、ことをきめようと思ったので勇気をつけるためウイスキーを注文しました。私は小夜子が酒を呑むことを知っていますので炭酸水をも注文したのでした。
ウイスキーが来てから私は生のまま三杯ぐっとやりました。小夜子も炭酸水にウイスキーを入れて呑みました。彼女は酒も煙草も平気でやる女です。これで大ていその性質がお判りでしょう。
それから差し向いで約一時間位語り合いましたが、この時の小夜子の話は殆んど全部が金のことや、その他の物質的なことで持ち切っていました。
つまり少しでも余計に取ろうというのです。