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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
十五
あの地点へ来た時はじめてハンドルの工合が非常に悪いのに気がついたのです。あっという間に目の前に崖が来ました。自分は殆ど本能的に外にとび出してしまいました。扉をどうしてあけたか全く夢中で覚えませぬ。私は直ぐに自首しようと思ったのですが、あまり自分の罪が大きかったので自首出来ず逃れたのです」
業務上過失致死罪です、一番重くて三年の禁錮ですみます。かの殺人罪に比すればはるかな違いではありませんか。
ただ私は今に至って余計な小細工をしたのではないかという事を恐れます。あの後どうなったか判りませんが、もしつかまった場合を予想するならば少くも衣服をすてるのではありませんでした。之は無論運転手も共に落ちたと思わせるための手段だったのですが、果して成功しているでしょうか。捕った場合にはいい訳のしようがないのです。私は係官が私の死体を探していることを望みます。
あなたにお願いするのはその点です。もし捕まったらどうかあなたは全力を以て防禦して下さい。
長々と御判読を煩わしたことを謝します。
最後にあなたの御健康を祈ります。
十五
之が手紙の全部です。そうして彼秋田清吉の望み通り彼は今に至るまで捕まりませぬ。