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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

三

法律家たる私はどうもこういう通俗小説になりそうな、恋愛物語がうまくお話出来なくて甚だ残念ですが、ともかく五月にはじめて会った二人はまもなく恋人になり、そうして遂に夫婦約束をするようになったのでした。

春一の方でも確かにはじめは妻にする気だったのでしょう。妻になってくれという申込をやったのです。小夜子ははじめ春一から申込を受けた時、余り身分が違いすぎるという理由ではっきりと断ったそうですが、春一の熱情に動かされたばかりでなく、元より好いていたのですからついにこの申込を承諾しました、のみならず、それからというものは、全く、何らの支障もなく春一が学校を卒業すると同時に、その妻になれるものと信じていたらしいのです。

尤も小夜子が死んでいるのですから、彼女の心理状態は私にはよく判りませんが、種々の状況からどうもそう信じていいと思われます。

但し春一自身は私の前で、そんな事はない、小夜子だって真面目にそんな事を考えていたわけではない、とあく迄も主張しておりました。

三

扠斯様なブルジョアの一人息子とカフェーの女給との恋が、円満に進んで結婚に迄行くという事は、まず一寸考えられない話です。