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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

七

私はそれ故、小夜子を殺そうなどと思ったことはありませぬ。もし殺す様だったら、何の必要があってホテルになど行きましょう。あの郊外の草原の中で絞殺したってすむわけなのです。全く私が自分を防ぐためと、腹立まぎれに乱暴をしたのが、この間違いを惹き起したのでした。それにその際ウイスキーを大分のんでいたのもいけなかったと考えます」

須山春一が私に述べた所は、要するに右のようなもので、勿論警察、検事局、予審廷、公判廷と、言葉はおのおの違っておりますが法律的にいえば、全く主旨は同じでありました。

七

法律的な言い表わし方をすれば、須山春一は、その犯罪の動機を明かに説明し、殺意を絶対に否認し、自己に暴行の認識あるを認めております。但し自己の暴行については多少正当防衛説を主張し他方犯行当時ウイスキーを多量に呑んでいたため、通常の心理状態になかりしことを主張しております。

一方解剖の結果、小夜子の死は、春一の暴行に直接原因を有するものなることが明瞭になりました。

取調に関する詳細な点を省いていえば、私は、春一に対し、事件を傷害致死罪の名によって起訴すべきものと認定し、直ちに事件を予審判事の手に移したのでした。