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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

忙しいんだ」

四郎はその画廊で一週間の個展を開いていた。忙しいというのは、必ずしも口実ではなかった。電話口の遠くから、かすかに音楽が聞えてくる。四郎の声がそれをさえぎった。

「兄さんはどうする?」

「おれも行きたくないな」

栄介は答えた。

「勝手にやって来て、ムカエタノムもないだろう」

「それもそうだね。しかし幸伯父は兄貴の住所を知ってるんだろう?」

「そりゃそうさ。ハガキをよこすぐらいだからな。しかし迎えに行かないと言うことで、幸伯父はおれたちに会うことを諦めるかも知れない。歓迎されざる――」

「そううまく行くかな」

四郎の笑声が聞えた。

「きっと兄さんの家に押しかけて来るぜ」

「そのおそれは充分にあるな」

栄介は真面目な声で言った。その場合を考えると、やり切れない気がした。

「とにかくお前から、電話でいいから、一応税務屋さんに知らしといて呉れ。たのむ」

それで電話を切った。

翌日九時半頃眼が覚めた。その日は講義がなかったので、栄介は十一時近くまで寝床の中で、新聞や雑誌を読んでいた。それから渋々起き上って、かんたんな食事を済ませ、外出の用意をする。しかし迎えに行こうか行くまいか、まだ決めかねていた。