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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
その兵庫の姿はといえば、例によってまことにみすぼらしい、蚤とり武士の姿であった。すなわち着流しで草履ばき、編笠で深く面を隠し、腰になめした猫の皮を、筒のように巻いて差していて、しかも長目の両刀を、落としざしにして差している。
が、兵庫は兵庫一人で、決して旅をしているのではなかった。
同志五人と同伴なのであった。
すなわち神道無念流の使い手、柴田一角をはじめとし、これも剣道では党中無類と、恐れられている金井半九郎、同じく有竹松太郎――これは商売が独楽廻しなので、身装もそれにやつしてい、さらに虚無僧に身を変えている、関口勘之丞と僧の範円――以上が同伴しているのであった。
とはいえもちろんお互い同志は、全く他人であるかのように、相当離れた距離を保ち、そしらぬ顔をして行くのであった。
が、そういう六人の者が、決して少しの油断もせず、見詰めているところの一物があった。
十五人の武士に警護されて行く怪しい一挺の駕籠なのである。
何んと日中暑いのに、その駕籠は上から油単をかけ、内に乗っている主人の姿を、全然人に見せないではないか。
が、その駕籠に乗っている者は、手錠をかけられた武士であって、それは五十嵐右内なのであった。