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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

なつかしの思い出

こう思わざるを得なかった。

そこでわざと高笑いをした。

「何んのこれとても恋からでござるよ。……拙者梶子様に首ったけで。そこで恋敵の民弥殿を、眼の敵にして申しますので。アッハハハ、恋は曲者、拙者もヤキが廻ってござる。……が、姓を刃と申すほどあって、恋も怨みも人一倍、深く感ずる拙者でござれば、梶子様にも民弥殿にも、ご用心肝要でござりましょうよ。……抜けば必ず血を見る長船! この長船を抜かせぬよう、ご注意! ご用心! ご注意! ご用心!」

ここで黒痣半面の顔を、ひん曲げて厭らしく憎々しく笑った。

「またこわもてかい! こわかアないよ」

云ったものの梶子は厭な気がした。

(こいつは随分執念深そうだよ)

膝の上の猫の背をさすりながら、ふっと不安を覚えさえした。

なつかしの思い出

それから二日の日が経った。

姉小路卿は使命を終って、江戸から京都へかえることになり、柳営諸閣老に別れを告げるべく、それぞれのお屋敷へ伺候した。

保科正之、松平伊豆守、阿部豊後守、酒井忠勝、こういう人々が幼年の将軍、家綱公を補佐していた。

それらの人々のお屋敷へ行った。

姉小路卿は老人ではあったが、才幹胆力二つながら勝れ、かつ素晴らしい外交家であった。