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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
梶子と民弥
ますとな、早速頼んでそういうことにし、梶子殿の家へ運ばせてやった。……お前も助かったというものさ、あんなこわれ易い品物などを、長の道中送って行くこと、随分迷惑なことだのに、うまくそいつが遁がれられたのだから。……ええとそこでお前としては、明後日京都へ帰ってもよければ、わしと一緒に伊香保へ行って、ゆっくり湯治をしてもよい。どうするな、伊香保へ行くか?」
「…………」
民弥には返辞さえ出来なかった。
冷や汗が全身に湧いて流れ、胴顫いがガタガタした。
「どうした大変顔色が悪いが」
と、姉小路卿は不思議そうに云った。
「は、にわかに腹痛が……」
「それはいけない、ではお休み。……伊香保へ行くか京都へ帰るか、明日中にゆっくり考えるとよい」
「…………」
民弥は自分の部屋へ帰って来た。
梶子と民弥
その翌日の午前であった。
「あのうお客様でございます」
と、小間使いのお梅が手をついて云った。
ここは梶子の家なのである。
今日は朝寝の梶子であった。
やっとこさ今しがた床から起き、ざっと顔を洗ったばかりで、まだ朝化粧も施していず、寝巻のままで縁へ出て、そこに釣るしてある金糸鳥の籠を覗き、あっちへ飛んではパチパチと啼き、こっちへ飛んではピ――チクと啼く、ばかに元気のよい小鳥の動作を、微笑しながら見ていた時だった。