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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「そう。それじゃア行ってもいいよ」
菊女は涙が出そうになった。
それを笑いにまぎらせて、主膳と一緒に玄関へ出た。
とすぐに番頭や大勢の女中が、バタバタと玄関へ送って来た。
「あのお出かけでござりまするか」
「お城下の夜景を見に参る」
「ごゆっくりご見物なさりませ」
――で菊女は供のように、主膳を連れて往来へ出た。
旅籠の格子戸の一所へ、素早く眼をやってチラリと見た。
藁しべがこっそり結び付けてあった。
互いに連絡をとるために、泊まった旅籠へ藁しべをつける。――と云うことになっていたからであった。
往来の人通りはまばらであった。
少しく夜が更けたからである。
でも六万一千石、井上河内守様のお城下なので、宵は相当賑わうのであった。
往来の一所に着流し姿――みすぼらしい猫の蚤とり商売、それに姿をやつしたところの、鵜の丸兵庫が佇んでいた。
で、菊女と主膳とは、そっちへ向かって歩いて行った。
と、兵庫も歩き出した。
こうして三人肩を揃えたが、風采が全然身分違いであった。知己と見られては疑がわれるだろう。で、三人は素知らぬ様子で、行きずりの人のように振る舞いながら、小声で忙しく囁き合った。