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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「火急の場合、用件のみ申す」
とまず兵庫はそう云った。
「五十嵐右内殿を奪取するので。……右内殿の宿所は本陣備前屋。で今夜丑の刻に、竹筒仕込みの地雷火を仕掛け、備前屋に不意の火災を起こさせ、混乱にまぎれて奪い取り申す。……で備前屋に火災ありと聞かば、そなたたちにおいては萩丸殿を連れ、直ちに宿を出裏道づたいに、西南へ三里走られて、青塚と申す郷へいで、そこの郷長佐原嘉門、この仁の屋敷へおいでくだされ。……我らも右内殿を奪取して、嘉門殿の屋敷へ参るのでござれば。……この城下にはご存知の通り、紀州の藩士どもおりますれば、萩丸殿を奪われぬよう、よくよくご注意くだされい。……もっとも萩丸殿女装なれば、めったに見あらわされはしますまいが、用心の上にも用心をし、頭巾で顔など包むがよろしい。……これは図面じゃ。青塚までの図面! 道順を書いた図面でござる」
こう云って兵庫は一葉の紙片を、そっと菊女の手へ渡した。
「これにてご免、いずれ後刻」
云いすて兵庫は行こうとした。
「ま、兵庫様、それではあんまり」
思わず菊女はそう云って、男装を忘れ女となり、スルスルと兵庫へ寄り添った。