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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「ところで松浦氏今夜いよいよ、右内殿奪取を実行仕る」

と、兵庫は厳めしい声で云い、その手筈をくわしく話した。

同じこの夜のことである。

本陣備前屋の奥の部屋に、五十嵐右内が端座していた。

罪状があってないようなもの、それに身分が武士であり、人格も勝れているところから、手錠なども外されて、普通の士人としてあつかわれていた。

隣室幾間かには警護の武士が、十五人がところ泊まっていた。

もう夜はずっと更けていた。

幽かな行燈の火に照らされた、右内の姿はやつれていて囹圄の人、らしいところはあったが、眼には活気と精気とがあり、気力の衰えていないことを、それによってあらわしていた。

紀州表へ護送されたあげく、その地で多くの他の同志と共に、曖昧のうちに吟味もされず、刑殺されるのだということは、彼にもハッキリわかっていた。

(大事を企てた男子としては、一旦事が破れた暁、この世を辞するは当然のことだ)

こういう考えを持っていたので、刑殺される一点については、さして苦痛も感じなかった。

が、彼としてはただ一つだけ、まことに心外のことがあった。

党の会計方にあずかっていて、軍用金とすべき大金を、ある一所に隠して置いた。