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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

――こう思うと三十郎には得意と皮肉とが、つくづく感じられてならないのであった。

梶子は眉間へ縦皺を寄せ、不快と怒りと憎しみとを、あからさまに顔にあらわしていたが、

「機嫌など何んで直るものかよ。……こんな目にあわされて何んの機嫌が! ……何んと云おう、乱暴狼藉! ……馬鹿にするにも程があるよ!」

梶子の態度は伝法であった。

さすがに伊豆守の女隠密、これまで生死の巷などへは、幾度となく立ち入った経験はあり、それに貞操というようなことなど、何んとも思っていない女だったので、こんな境遇になった今も、恐怖などは少しも感じていなかった。

以前は自分の用心棒、いわば部下だった三十郎ずれに、こんな目に逢わされたということについて、癪にさわっているばかりであった。

二人はそれっきり黙ってしまった。

古い障子、破れた襖、煤の落ちそうな黒い天井、この穢い部屋の中へも、真昼の陽は明るく射して来ていて、壁に添って置いてある人形箱の、白い木地ばかりが清らかに見えた。

「ねえ三十郎さん」

と梶子は云った。

「これから妾をどうする気なのさ」

「さあ」

と三十郎は苦笑いをしたが、

「さあ……しかし……まあまあそれは……それはどうでもよろしいとしまして、当分ここでご静養、ご静養なさるがようございます」