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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「これは!」

「まあ!」

「これはこれは」

二人は驚いて眼を見合わせたが、

「カラクリでござるな、精妙なカラクリ」

「そうとも精妙なカラクリだよ」

「何かはいっていませぬかな」

三十郎は顔を持って行き、その穴を覗いて見た。

「書状らしい物が入れてあります」

「何んだろう? 取り出してごらんよ」

三十郎は書状を取り出した。

表に簾子姫への宛名があり、裏に伊豆守の名が書いてあった。

また二人は顔を見合わせ、

「恋文なのさ、ホッホッホッ」

「でありましょうな、偉い方々の」

「ああいう上の方の恋の消息、どんなものだろう、見たいねえ」

「と申してもまさか封を切って……」

「そうねえ」

と梶子は考えたが、

(伊豆守様の妾は隠密、隠密というものは不安なもので、ご用がなくなるとお暇になったり、まごまごすると殺されさえする。そんな時主人の弱点か秘密を、一つしっかり握っておけば、それが助けの神となる。……伊豆守様の恋文を見て、その秘密を知ってやろう)

こう決心すると大胆不敵にも、

「その書状ちょいと貸してごらん」

と、三十郎より書状を取ると、髪から簪をスルリと抜き、そこは隠密の巧妙な手捌き、書状の封目へ簪を入れ、見事に封目を解いてあけた。