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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

それから加藤源兵衛へ眼をやり、

「ここにおられるは紀州家のご家臣、加藤源兵衛殿と申されます。……加藤殿こちらが佐原嘉門殿で」

で、二人は辞儀し合った。

「ええと早速嘉門殿へ、ちょっとおたずねいたしまするが、萩丸様ご無事でござりまするかな?」

(ソレ来た)

と嘉門は心中で笑った。

(この老獪な郡奉行め、何気ないようなアッサリした態度で、こっちの様子をうかがうわい)

「はい、ご無事にいらせられまする」

「ちょっと拝顔いたしたいもので」

「その儀はどうも……」

「いけませんかな?」

「ちと困難にございまする」

「何故でござるな!」

と云ったのは、来た時から怒気と焦燥とを、顔に現わしていた源兵衛であった。

「拙者は紀州の藩士でござる、藩侯のご愛孫がこのようなところに、人質同様に捕えられておる。藩士としてはそのお方に、拝顔いたしたく思うは当然、何故お逢わせくださらぬ!」

「アッハッハッハッ」と嘉門の方が、今度は老獪に柔かく笑った。

「人質同様のお方でござれば、お逢わせすることなりませぬて」

「これは不都合! 逢わせぬとなら……」

「何んとなさるな、これは面白い」

「奥へ踏み込み……奥へ踏み込み……」