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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

……あなたは今はわしの物じゃ。……刃三十郎の所有物じゃ! ……焼いて食おうと煮て食おうと、拙者の自由というものじゃ」

「…………」

菊女は返辞をしなかった。

しかし心では思っていた。

(三十郎の云うとおりだ。こうなってはどうにもならぬ。どう思ってもどうにもならぬ。この兇悪な三十郎の、自由になるより仕方がない)と。

そう思いながらも思われるのであった。

(鵜の丸様はどうなったか? 萩丸様はどうなったか? 民弥様や右内様や、佐原嘉門様はどうなったか? 明暦義党の同志の方々や、青塚の郷の人達は、あれからどうなったことだろう? ……戦いは味方の負けのようであった! 一人のこらず戦死して、青塚の郷は焼き払われ、壊滅に帰しはしなかったか? ……それにしてもどうしてこうも早く、味方は敗北したのだろう?)

そうして彼女はこの三十郎が、自分に何を要求し、自分をどんなように取り扱かうかが、不安に思われてならなかった。

(淫蕩の眼付きで妾を見る! ……もしかすると妾の躰を!)

こう思うとゾッとした。

(こんな男に穢されるほどなら妾は舌を噛み切って死ぬ!)

貞操だけは守り通して見せる!