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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
それを引き連れて瀬戸内海の、この島へ渡航して来たのであった。
が、それにしても何のために、この島などへ来たのであろう?
明暦義党の軍用金が、この島に隠されてあるからであった。
それは五十嵐右内によって、同志一同に告げられた。
で、その金を取り出すために、この島へ渡って来たのであるが、ただそれだけのことであったなら、このように多数の人間が、大挙渡来する必要はない。
他にもう一つ理由があった。
明暦義党の徒はいうまでもなく、青塚郷の郷民も、上に逆らった人々なので、普通の世間へは入れられない。身分が知れたらからめとられる。そこでこの島へ渡って来て、空想的でもあり冒険的でもあり、夢のような試みであるけれど、開墾をやって自給自足し、しばらく世間の様子を見よう。……で、この島へ来たのであった。
幸いこの島は海岸の辺に、わずか漁師が住んでいるばかりで、他にはほとんど住民なく、隠れ住むにはふさわしかった。
ところがどうだろう上陸早々に敵なる紀州の藩士たちが、そのように多数上陸したとは。
兵庫も嘉門も当惑そうに、顔を見合わせて黙ってしまった。
と、その時同志の一人の、関口勘之丞が林の奥から、これも狼狽した顔をして、呼吸せききって走って来た。