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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

さりとて決してこの女を、民弥は嫌っているのではなかった。いやむしろ好いていた。とはいえどうにもこの女の素姓と、その行動とが不可解だったので、気味悪く思う感情の方が、一番彼には多かった。

今も現にこの女が云ったように、京都へも行けば大坂へも行き、紀州へも行けば江戸にも来ている。日本国中この女は、どこへでも出かけて行くらしい。

そうして行った先の上流、中流、最下等から最上流の、あらゆる人間に知己があって、交わりを結んでいることなども、民弥には気味が悪かった。

派手で目立って金使いが荒くて、どこででも評判の女となる。――このことも民弥には気味悪いのであった。

秘密を持って秘密の仕事に、従事している危険な女!

そんな女のように思われるのであった。

二人の立って話している、大通りにあたっていた夕暮れの光が、そろそろ消えて行こうとしていた。

民弥と梶子との立ち話を、家の蔭にかくれて眺めている、刃三十郎の眼の中に、殺気と恐怖の色のあるのは、いったいどうしたというのだろう。

(ありゃア松浦勘解由の忰だ。わずかの意趣から太秦の野道で、その勘解由を討って取り、爾来自分でも世を狭めていたが、こんな江戸の地でその勘解由の忰の、民弥に逢おうとは思わなかった)