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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「…………」
「拙者と参った方がまだよいようで。……」
ここで三十郎はいやらしく笑った。
「拙者と参って例の洞で、また共住みというやつをする。……が、こんどはほんとの夫婦で。……ほんとの夫婦になるつもりで、拙者と洞へ参る気でなくば、拙者そなたを紀州藩士へ、ここで用捨なく引き渡す」
「…………」
無言ではあったが心の中で、菊女は考えざるを得なかった。
(紀州藩士へ渡されたら、妾の命はないかもしれない、三十郎と一緒に行っても、命には別状はないらしい。……それに時間もあることなのだから、その間に三十郎をなだめすかして、いやらしい望みを断たせることも出来れば、また逃げ出すことだって出来る。……三十郎と一緒に行こう)
で、
「三十郎様」
と、おとなしく云った。
「ご一緒に参るでござりましょうよ」
「それがよろしい」
と三十郎は笑った。
「二つない命とられるのと、男の肌を味おうのとは、全く比べものになりませぬからのう」
二人はこっそりと林の奥へ進んだ。
島の海岸の一所に、一隻の帆船がもやっていて、その胴の間で梶子と民弥とが、親しそうに話していた。
「あんなところにあんな人間が、ああ沢山いようとは、全く夢にも思いませんでしたねえ」