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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

が、縁あってあるお方から、隠れ扶持を貰うことになり、その人の云いつけで梶子の後見――附け人として江戸の地へ、今度派遣されて来たのであった。

三十郎は家の蔭から、梶子と民弥とを尚見守った。

宵の色が次第に濃くなって来る往来で、まだ二人は囁き合っていた。

(それにしても梶子殿と民弥とが、親しい仲だとは知らなかった)

(二人が親しい仲だとすると、よほど用心しなければならない)

三十郎はそう思った。

民弥の父親を自分が殺した。で民弥が父の敵として、自分を探し求めている。――ということを梶子に知られでもしたら、梶子の口から民弥に話され、自分は民弥に討たれようも知れない。

(梶子には絶対に明かしてはならない)

三十郎はそう思った。

(それではむしろ消極的だ。……いっそ後腹痛めぬよう、民弥めを討って取ってやろう!)

邪悪の心の持ち主の上に、惨酷の心の持ち主であった。そう三十郎は決心した。

菊女と萩丸とを乗せた駕籠が二挺、この頃本所の亀沢町の辺を、深川の方をさして走っていた。

菊女は絶えず背後を振り返って、萩丸に向かって秋波をおくり、萩丸はそれに引きつけられ、菊女の駕籠を見失わないように、自分の乗っている駕籠舁きに命じ、後を追わせているのであった。