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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

松明の光は見えなかった。

舌うちをして引っ返し、兵庫たちの行った方を眺めて見た。

松明の光が遠くに見えた。

で、三十郎はその後を追った。

梶子と民弥との後を追い、民弥を討ってとりたいのであったが、二人はどこへ行ったものか、松明の火が見えなくなっていた。さがして目付かれば幸いであるが、さがしても二人が目付からず、その間に兵庫たちもどこかへ行って、さがし出すことが出来なかったら、いわゆる虻蜂とらずとなり、この暗黒の洞窟内で、全く光を失ってしまい、洞外へ出ることが出来なくなってしまう。

これが三十郎には恐ろしかった。

で、心外ではあったけれど、兵庫たちの後から行くことにし、今、その二人を追って行くのであった。

そんなこととは夢にも知らず、兵庫と右内とは歩いて行った。

「心配になるのは本陣のことで」

と、兵庫は右内へ不安そうに云った。

「紀州の藩士ら我らの不在に、本陣を襲いはしまいかと存じて」

「さよう。しかし」

と右内は云った。

「嘉門殿が何んとかなされましょう」

「さよう」

と今度は兵庫が云った。

「この不安嘉門殿に申しましたところ、海上に船もござることゆえ、まずまず大丈夫とおぼしめし、心配なく洞窟へおいでなされと、充分自信あるらしく、この拙者に申されましたよ」