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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「年功老練の嘉門殿でござる、お任せしておいて大丈夫でござろう」

「時に」

と兵庫が囁くように云った。

「我々同志の軍用金、どこに隠匿してありますので?」

「よろしゅうござる、申し上げましょう」

右内は至極真面目に云った。

「これまではたとえ同志であろうと、拙者大事をとりまして、その軍用金の所在については、口を緘しておりましたが、もう申してもよろしゅうござろう。……軍用金のあり場所は、北側の口よりはいりまして、空気に毒素の加わる地点より、数間離れた岩壁の一所! ……すなわちそこにござります」

――するとこの時どこからともなく、女の悲鳴が聞こえて来た。

二人は顔を見合わせた。

「女の声のようでありましたが」

「さよう、女の声のようでござりました」

時が時、所が所、二人は何がなしにゾッとした。

また女の悲鳴が聞こえた。

何か叫んでいるようであった。

文句はほとんどわからなかった。

洞窟に響いてただワーンと、こんなようにばかり聞こえるからである。

「これは捨てては置けませぬな」

兵庫は情深くそう云った。

「さよう」

と右内もそれに応じた。

「女がこのような洞窟内に、まぎれ込んでいるとありましては、うっちゃっておくことは出来ませぬ」