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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「錨を持って行かれたとあっては、船をとどめて置くことも出来ぬの。このような時には岸へなど寄せずに、沖の方へ止めて置くべきだが」
老貴公子はそう云いながら、ここまで聞こえて来る暴風雨や、波濤の音に耳を澄ました。
と、人々の叫ぶ声が聞こえた。
「変な小船が寄せて来たぞ!」
「海賊ではないか! 用心しろ!」
「それ右舷の方へ廻ったぞ!」
「左舷の方へもあらわれた」
「ヤア何か叫んでいる」
「松明をふりまわして合図をしている」
老貴公子はそれを聞くと、
「天災に加えて人の災が来たか。……それも仕方あるまいよ……海賊? なるほどそうかもしれぬ。純友以来瀬戸内海は、海賊どもの巣窟だからの」
と、依然として悠々寛々として云った。
しかし人々の叫ぶ声が、あまりに烈しくきこえて来たので、老貴公子は立ち上がった。
「どれ甲板へ出てみよう」
家来たちは口々に止めた。
「おあぶのうござります、お止まりくだされ」
「それに雨風も烈しゅうござりますれば」
しかし老貴公子は意にもかけないで、甲板の方へ上がって行った。
で、家来たちも止むを得ず、それにつづいて甲板に上がった。
いかさま凄まじい光景であった。