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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「この人たち可哀そうですわねえ」

「可哀そうな犠牲です」

と、民弥も弱々しく真面目に云った。

「ここで殺された人達です」

「そうよ、秘密を洩らされまいとしてねえ」

「これだけの部屋をこしらえて、これだけの財宝を運んで来て、首尾よくここへ納めた時が、この人たちの殺される時。――そういうことになったのですねえ」

「人柱ですのね、可哀そうに」

「その人柱に守られて、今日まで財宝があったという訳です」

「それをわたしたちが頂戴するのねえ」

「しかしわたしたちも苦労しましたよ」

「そうですわねえ、死ぬか生きるかの。……でもとうとう望みをとげましたわ」

梶子はここまで云って来たが、ここでにわかに情熱的になり、

「もう一つの望みはどうなるのでしょうねえ」

「もう一つの望みとは?」

「…………」

梶子は返辞をしなかった。

しかし燃えるような愛情の眼で、民弥の顔を凝視した。

それは恋の眼であった。

(そうだった!)

と民弥は思った。

(久しい間絶える暇なく、何んとこの女はこの自分を、烈しく愛してくれたことか! 危険の時にも平和の時にも、終始一貫して愛してくれた! そうして最後には夢のような、このような巨財を与えてくれた!)