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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

と、梶子の顔を優しく眺めた。

「ご親切にありがとうございます」

こうは梶子は云ったものの、

(そんなお年寄りの老婆心で、そのようなご注意いただかなくとも、妾にはちゃんとした心づもりが、とうの昔についているのですよ)

と、心では思っているのであった。

「恋をいたして家庭をつくる、これが女の身としては最大の幸福――とわしは思うのだがのう」

「はいはいさようでございますとも」

「それが失敗に終った女は、生涯どうにも不幸らしい。……そのよい例が簾子姫でな」

「鷹司様のお妹ご様の、簾子姫でござりますのね。……恋のお相手は伊豆守様で。……」

「ということになっているが、今度この地へやって来て、頼宣卿にお目にかかり、いろいろ私的のお話や、昔話などいたしているうちに、そうでないことを知ってのう」

「まあまあさようでございますか」

「松平伊豆守様はご自分だけで簾子姫を、恋しておられただけじゃそうな」

「片恋だったのですね、お気の毒な」

「中頃伊豆守様もそれを知られて、ご断念なされたということじゃ。――簾子姫の恋しているそのお方が、大変お偉いお方だったのでな」

「どなた様なのでございます?」