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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

五十嵐右内をおっとり囲み、捕えようとする紀州藩士の群と、それを助けようとする鵜の丸兵庫を、やるまいとする紀州藩士の群――この二組の人渦が、田圃の二所で渦巻いている。

悲鳴!

太刀音!

仆れる音!

二つの人渦は次第次第に、その間隔を大きくして来た。

多勢に無勢、刻一刻、右内は気力を失って来た。一人二人は斬ったらしい、血にぬれた刀を握っている手が、しこりで今は動かなくなった。足もよろめきを覚えて来た。

と見てとった紀州藩士達は、左右前後から襲いかかった。

兵庫に至ってはそうではなかった。

生死は知らず三人あまり、紀州藩士を斬って仆し、懲りずまに尚もかかって来る藩士を、刀上段に振りかぶり、睨みながらあしらっていた。

と、その眼に見えたのは、十数間の彼方において、同志の右内が紀州藩士に、捕えられようとする姿であった。

(一大事!)

と兵庫は思った。

「五十嵐殿オ――ッ」

と大音に声かけ、

「しっかりなされい! お助けに参る!」

前にある敵を一刀に仆し、左右にいた敵が驚いて、飛び退いた隙を真一文字に、右内の方へ駆けつけようとした。

と、これより少し以前から、数間はなれて立っているところの、積み藁の蔭に佇んで、様子を見ていた武士があったが、この時ソロリと刀を抜くと、平青眼にピタリとつけて辷るがようにスルスルと出で、兵庫