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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

……妾が京都で仕事をした時、ちょっとばかり懇意にした人さ。それであの時逢ったので、つい立ち話をしただけさ。……姉小路様が何かのご用で、こっそり江戸へおいでになったのについて、江戸へ来たとか云っていたっけ。……松浦民弥っていう人さ」

「ははあさようでございますか。……が、わたくしにはあの若侍が、今度の事件に関係あるよう……」

「そうかねえ、そんな筈はないが……」

こう梶子は云ったものの、実は梶子もそのことについては、多分に疑がいを持っているのであった。

(あの時あの娘を松浦様は、たしかにつけて行ったような気がする。あの娘と松浦様とが手を組んで、萩丸様を誘拐したような気がする)

こんなように思われてならないのであった。

では何故彼女は民弥の方へ、探索の手を延ばさないのであろう?

それは恋する心からであった。

(今度の事件は背景が大きく、恐ろしい事件であるような気がする。そんな事件に、民弥様など、どうぞ関係ないように! ……ナーニ関係なんかありゃアしないよ! あるものか、ありゃアしない!)

この矛盾した心持ちが、民弥の方へ探索の手を、いまだに延ばさない原因なのであった。