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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

――その役目を引き受けたのが、ほかならぬ松浦民弥であった。

民弥は近日その主人の、姉小路卿に扈従して、京都の地へ帰って行く筈である。姉小路卿の家臣として、京都まで行くことは道中何より、これより安全のことはない。関所などでも咎められない。彼が宥免状をたずさえていようと、安全に京都までは持って行ける。京都から紀州までは間近である。で、京都へ着いてから、姉小路卿に暇を貰い、紀州へ行ってつてを求め、頼宣卿へ宥免状を渡す。――これはやり易いことである。

そこでこの任を松浦民弥は、自分からも進んで引き受けたし、同志からも懇望されたのであった。

明後日出発というのであるから、民弥は細々と身のまわりの物を、とりあつめて荷づくりなどした。

と、その時小侍が来て、姉小路卿の帰館を知らせた。

民弥は主人の部屋へ行った。

周防守様のご本殿の、大奥の結構な一構えが、姉小路卿の住居であった。

「おお民弥か、これをご覧」

民弥が部屋へはいって行くや、姉小路卿はこう云って、巨大な桐の箱を指さした。

「これは何んでございますか?」

民弥は驚いてこう訊いた。

「まあ蓋をあけて見るがいいよ」