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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「どなた様かは存じませぬが、助太刀感謝、お礼申す」
「その者お抑えくだされい」
「行け!」
ド、ド、ド、ド――ッと右内目がけて、紀州藩士たちは走り出した。
「汝!」
と怒りを心頭に発し、兵庫は浪人へ斬り込んだ。
が、空を斬ったばかりであった。
今までの位置よりはほんのわずか、左の方へ片寄った位置に、痣の浪人は依然として静もり、依然として刀を平青眼につけて、こっちを凝然と睨んでいた。
「宣れ! 何者! 云え! 意趣を!」
兵庫は嗄れた声で叫んだ。
「何者が何んの意趣あって、拙者に向かって手向かうぞ! ……酔狂ならば度が過ぎる、意趣あらば意趣を仰せられい! ……拙者にとっては必死の場合、一人の盟友の生死の境いじゃ! ……邪魔せずにそこをお退きくだされい! ……退け退け、お退きくだされい!」
「…………」
痣の浪人は無言であった。
しかしどうやら笑ったらしく、前歯が白くチラリと見えた。
その憎々しさ、その大胆さ、思慮に富んでいる兵庫ではあったが、怒り以上の怒りを感じ、生死かまわず斬り込もうとしたとたん、
「捕ったア――ッ」
という声が遙かから聞こえた。
ギョッとして声の来た方角に向かい、眼を走らせた兵庫の眼に、五十嵐右内が捕えられ、紀州藩士達に手籠めにされ、宙に高く舁ぎ上げられ、町の方へ畷道を一散に、走っていくところの姿が