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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

宥免状の隠し場所の、絶対安全の場所が出来た。――この喜びが民弥をして、口もとへ微笑させたのであった。

彼は部屋の中を見廻して見た。

誰も人はいなかった。

襖をあけて四方を見た。

誰も人はいなかった。

で、人形箱の前へ来て坐り、おもむろに懐中へ手をさし入れ、胴巻の中をかい探り、宥免状をとり出した。

それからそれを小さくたたみ、片手の指先で女雛の王冠の、金剛石を一押し押し、胸の辺へ出来た隠し所の中へ、そっと宥免状を送り込み、金剛石から指を放した。

と、穴はふさがった。

ホッとしたような心持ちで、民弥は人形をつくづくと見た。

燭台の光に照らされて、箱の中の男女の内裏雛は――男の方も女の方も――若く美しく生けるがように、笑みを含んで静もってい、そのような大切な秘密の書状など、胎内に蔵していようなどとは誰にも感づかれそうにも思われなかった。

(これでよし、安心だ)

箱へ蓋をして床脇へ置き、民弥はそれから外出衣に着かえた。

――これらの事情を鵜の丸兵庫へ、一応話して置く必要があると、兵庫の住居へ出かけて行こうと、こう思ったからである。

民弥はお屋敷から外へ出た。