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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

ここでジロリと姉小路卿を見た。

卿はすっかりステバチになった。

(かまうものか、ブチマケてしまえ。なまじこういう女には、隠しだててはよくあるまい)

で、平然とした口調で云った。

「関白鷹司卿のお妹君、簾子姫様へでござりますじゃ」

「まあまあまあ、あのお姫様へ! ……簾子姫君様でござりましたら、この妾もなみなみならず、お目かけくだされましてござりまする。……あのお方へ伊豆守様より恋の進物?」

またジロリと姉小路卿を見た。

(こいつは苦手だ)

と姉小路卿は思った。

(かぶとを脱がなければいけないらしい)

そこで剽軽に額のあたりを、姉小路卿はポンと打ち、

「梶子殿あやまる、わしの失言じゃ! そうそう虐めるものではない。――恋の進物などと申したこと、わしの失言、あやまるあやまる!」

ここでまたポンと額を叩いた。

梶子もこれには吹き出してしまった。

が、なかなか妥協しようとはしないで、

「いえいえ仮りにも姉小路様、京都にお公卿様は多うございましても、随一の智恵者と立てられまするお方が……」

「千慮の一失! 千慮の一失!」

「失言などと、何んの何んの」

「それがやっぱり失言での」