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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

と、とうとう姉小路卿はそう云った。

「あなたに送っていただきましょうよ」

「とうとうご納得あそばしたそうな」

梶子は満足して嬉しそうに云った。

「わたくしお送りいたしましょうとも。……で、その人形はただ今どこに?」

「民弥の部屋にありますじゃ」

「では民弥様のお部屋へ参って。……」

「ところが民弥は留守でしてな」

「留守?」

「さっき方出かけましたよ。……友達に逢うとか云いましてな」

「…………」

梶子は少なからず失望した。

その人と逢いたいばっかりに、ここへやって来た彼女だったので。

が、留守のものは仕方がなかった。

「それではお人形はわたしの屋敷へ、すぐにこれからどなたかに担わせ……」

「よろしゅうござる、運ばせましょう」

間もなく梶子と人形箱とを担いだ、二人ばかりの人間が、周防守様のお屋敷を出た。

覆面をした一人の武士に、後をつけられているともしらず、松浦民弥は鵜の丸兵庫の、本所割下水の住居の方へ、心せきながら歩みを運んだ。曇天ではあったが雲切れがして、時々星が光をこぼした。

やがて兵庫の住居まで来た。

と、つけて来た武士であったが、民弥がその家へはいるのを見ると、ひそかに身を返し露路を巡り、裏庭の方へ歩いて行った。