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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
だが四日市に着いて考えてみると、あの仕込みづえの買物のおかげで、伊勢参りしたところで神戸へ戻る汽車賃が足りない。しかしここから横浜までの船賃なら残っていると気がついた。
『そんならいっそお伊勢参りはやめて東京へでもいってやろう』
私はあくる日にはもう横浜行の汽船に乗っていた。
もちろん横浜は私にとって初めての土地である。波止場にあがって居留地を抜けその豪勢なのにびっくりした。都会の騒音、めまぐるしい人の行き来の中へ私は夢心地ではいっていった。私は都会のあらゆる構成分子からの無言の威圧をはねかえすように胸を張った。だがまるきり金はない。知っている人もいない。私は町を歩きながら、片っぱしに桂庵(口入屋)ののれんをくぐったが、保証人がなく保証人を頼む二円の金の持合わせもないのだから軒並みに断られた。それでも最後の店では多少気の毒にもなったのだろう。『国元に身元を問合わせてみるから、その間ここにいてみたらどうかね』といってくれた。こんなありがたい話はない。私はそのまま当分番頭代わりの食客という奇妙な資格でそこに居座ることになった。いよいよ小づかいに困り、しめていた角帯を持って質屋へいき『五十銭貸してくれ』