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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
次第に小さくなって行くふるさとの山をながめながら、『えらくなるまでは帰らんぞ』。私の心は武者ぶるいするほど希望にふくらんでいた。だが淡路島や明石を過ぎて兵庫の棧橋につくと、まず港に林立する帆柱の数にどぎもを抜かれた。港におり立って初めて見る都会の風景に目を奪われ、言いしれぬ心細さにただ立ちつくすばかりだった。ひんぱんな出船、入船、かけ声をかけながらせわしく立働く仲仕たちを、私はうつろな目でながめていた。
『貞やん、はよゆこか……』
和助さんにうながされ、夢心地の私はふろ敷包みをだいて、てくてくとあとに従ったが『あれが三井銀行や、ここが米相場のたつところや』と教えられても、疲れ切った私はうなずくことさえ忘れている有様である。
奉公先として連れて行かれたのは屋号を座古清という川西家。川西家は当時すでに一に小曾根、二に座古清といわれるほどの兵庫きっての資産家で、帝国海上火災の代理店をしており、家業としては片手間に石炭問屋をやっている程度であった。だから奉公にきたものの、私の仕事は清ぼん、龍ぼんの二人の子供のお守役ということになった。もちろん無給である。龍ぼんこと川西龍三氏は旧川西航空機の社長になった人だが、その父君の二代目清兵衛氏は日本毛織の創立者として有名な人である。