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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

六の一

孝之助はなにか云おうとした。が、それより早く、鉄馬が続けて云った。

「だがおれには察しがついた、高安は或る人間の気持を庇ったのだ、八束がそんな男だということを、或る人間に知らせたくなかったんだ、事実を知れば、或る人間がよけい傷つかなければならない、そう思ってすべてを蔭に隠したんだ、その或る人間とは」

「やめて呉れ鉄馬、これはおれの問題だ」

叫ぶように云って、孝之助は立ちあがった。

「おれが弁解をしたことは無分別だった、しかしそのために、必要のないことまで洗い立てるのはよして呉れ、改めて詫びに来る、今日はこれで帰らせて貰うから、……おいで杉乃、いっしょに帰ろう」

杉乃はおとなしく立った。

「そうか、そういうならやめよう」

鉄馬も立ちながら云った。

「けれどもこのまま帰られては困る、祝いの支度がしてあるんだ、親たちが不審に思うから、いちど向うで坐ってからにして呉れ」

六の一

孝之助は浮かない顔つきで、とぼんと庭を眺めていた。

机に片肱をつき、手で顎を支えた恰好や、精のぬけたような眼や、濁った冴えない膚の色など、深い疲労を示しているようである。彼は疲れていた、げっそりと疲れていた。