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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

七日まえに藩主が帰ってから、ずっと役所が多忙だった。それには、三年まえに藩の直轄で始めた、新田開発の事業で資材関係の涜職問題が起こり、さいわいおおごとではなかったが、勘定奉行所から(ごく下級の者で)二人、連累者が出た。役所には関係がなかったし、うまく利用されたくらいのことだったが、部下からそういう者を出した以上、奉行職としていちおう責任を負わなければならない。

――それほどの必要はあるまい。

周囲ではそう云ったが、孝之助はともかく進退伺いを出した。そして、退任するばあいに備えて、事務の整理をしていたのである。

帰国した藩主によって、昨日、退任に及ばず、という命が下った。それを伝えたのは岡村八束であった。七年まえ、江戸詰になって去った彼は、以来ぐんぐん出世し、今年の二月には側用人に挙げられた。孝之助は昨日初めて会ったのだが、八束はすっかり風貌が変り、肥えて、血色のいい艶つやとした顔をしていた。

藩主の命を伝えたあと、八束は坐っていた位置をちょっとしざって、

――暫くでした、お変りもないようで結構です。

こう挨拶した。親しい口ぶりであるが、対等の親しさではなかった。