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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
敷地は三百坪ばかりだし、建物もさして大きくはなかった。しかし用材や設備はひどく凝った、贅沢なものだといわれている。庭にも樹石をずいぶん入れ、家具なども思いきって高価な品が多い、ということであった。孝之助の耳には、もう以前からそういう評がはいっていた。杉乃は聞いたことがあるかどうか、強い眼つきで屋敷のほうを見まもったが、すぐに(良人のほうは見ずに)頷いた。
「よろしゅうございます、まいりましょう」
孝之助はほっとして、歩きだした。
玄関の式台には、梅鉢の家紋を打った幕が張ってあり、左右に家士が詰めていた。すでに客が来はじめる時刻で、控えの間に通るともう五六人の先客が雑談していた。孝之助は妻といっしょなので、そこへ入るわけにはいかなかった。といって、別間へ案内して呉れるようすもない。当惑した彼は、見かけた家士を呼び止め、――妻が支度を直したいのだが部屋はどこか、と訊いた。高安孝之助と名をいって、二度も訊いたのであるが、
「どうぞこちらで、どうぞ」
こう云って控えの間を示すばかりだった。
構わずそこへ入ろうかと思った。だが杉乃は支度を直し、鏡を見る必要がある。